ナンパ師が挑むメンズエステ|中編:春風と共に

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Kites rise highest against the wind – not with it.
凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない。

– ウィンストン・チャーチル

 

楽しみにしていた、大切な真由とのデートが無くなり

 

 

失意に暮れた僕の目に飛び込んできたのは

 

 

「真由」という名の、メンズエステ嬢

 

 

それは、失意に暮れた男を動かすには

 

 

十分すぎる、餌だった。

 

 

—-

意を決し、メンズエステへ、電話を掛ける。

 

 

3コール、4コール

 

このまま誰も出なかったらどうしよう

 

僕は、このまま寝るのか。

 

 

それはそれで悪くない。そう思った矢先。

 

 

「はい。サロン〇〇です。」

 

 

「あ、、、、すいません、マッサージをお願いしたいのですが。」

 

「はい。お時間は。」

 

「今からは、、、可能でしょうか、、」

 

「はい。コースは。」

 

「60分、、、のコースでお願いします。」

 

「はい。ご指名は。」

 

 

店員が、業務的に、淡々と告げる。

 

 

「、、、ま、、、真由さんで、、」

 

「はい。移動費込みで〇〇円です。よろしいですか。」

 

「お、、、お願いします、、、」

 

「はい、では到着したらこのお電話で連絡します。では後ほど。」

 

 

電話が切れる。

 

 

 

部屋の中の静寂に「真由」という単語が反射して

 

 

 

しんしんと降り続く雪が、僕の不安を映し出しているようだった。

 

 


 

 

ああ

やってしまった

 

 

後悔と静寂が、波打ち際のように僕の心に押し寄せて、そして引いていく。

 

約束の時間まで、数十分。

 

 

、、、、、どうしたもんか

 

部屋を見渡す。

 

長い出張から帰ってきたせいもあり、僕の心を映しているようでもあり

 

少し荒れていた。

どうせなら

 

真由を呼ぶと思って、片付けるか。

 

部屋を徹底的に片付ける。

 

ただ、無心で。

修行僧のように

 

取っては、しまう。

 

取っては、捨てる。

 

気が付くと

 

そこには、「臨戦モード」となった僕の部屋がいた。

 

 

「おや?こんなにきれいにして、、、今日も女の子を連れ込むのですか?」

 

まるで紳士の様に整った部屋が、僕に語り掛けてきているようだ。

 

、、、いや、今日は、違うんだ。

 

「ほう、、、ではこの”処刑台”は、今夜はお役御免ですね?」

 

処刑台というのは、僕のダブルベッドだ。

 

数十万する海外のマットレスで仕上げた、ナンパ師の商売道具

 

ピストン運動を最大にするためにデザインされた機能美。

 

そのベッドで、何百人という女の子の絶叫を見てきた。

 

ああ、今夜その処刑台は使わないよ。

 

そう、部屋に語り掛ける。

そういえば、、、、

 

店員から、事前にシャワーを浴びるように言われていた。

 

まだまだ時間は十分だ。

 

そのまま、シャワーを浴びる。

 

頭から水を浴びながら考える

 

 

何やってんだ、、、、俺は、、、、

 

シャワーを浴び終わり、ソファで考える。

 

こんな事で、、、

 

時計を見ると、約束の刻が迫っていた。

 

着替え終わり、部屋を見る。

 

完璧にセットされたベッド

 

 

磨き抜かれたソファ

 

間接照明が怪しく部屋を照らす

 

 

改めて、メンズエステのサイトから真由を見る

 

妖艶

その言葉が、とても似あう。

 

はみ出そうなバスト

 

しまった腰回り

 

そして、艶のある唇

 

可憐な真由とは似つかないその容姿
(いや、別人か。)

その姿に、一瞬心を奪われる。

 

 

そして

 

スマホの画面が唐突に切り替わる

 

目の前に飛び出る「着信」の文字

。。。。。。来たか

 

電話に出る。

 

来訪を告げる声

 

アパートの玄関まで、真由を迎えに行く

 

外に出ると、雪がしんしんと降っていた。

 

白く塗られた世界。

 

その白い世界の中。アパートの前に、青い車が泊まっていた。

 

 

さあ、、、いよいよ、、、、その時が来た。

 

遠目に車を見る。

外で送迎と思われる男性が待機している。

 

社内に目を凝らす。

 

どうやら、2名程女性が乗っているようだった。

 

ほう、メンズエステ嬢を送迎する車は個別ではないのか。

 

そんな事を思いつつ車に接近する。

 

1人の女性の顔が見える。

 

若い

女子大生くらいだろうか

 

あどけなさの残る横顔、華奢な首筋が見える。

しかし、指名した真由は明らかにこの子ではない。

真由は、妖艶。その言葉が相応しい

 

 

「という事は、、、、」

 

もう一人の方か。

 

少し目を凝らしてみると、確かに大人びた服を着ている。

 

間違いない、この子が真由だ。

 

しかし、車の確度が悪く、社内にいる顔までは見えない。

 

意を決して接近する。

 

車の横に居た男性がこちらに気が付く。

 

「あ、どうも、メンズエステ〇〇です」

なんて返答をしたか、正直覚えていない。

 

多分、情けない声を出していたのだろう。

 

、、、ナンパ師なのに。

 

「あ、じゃあ。」

 

男性が車のドアをあけ、車内に呼びかける

 

「真由さん、お願いします」

 

「あ、はーい!」

 

 

体中の全神経が、研ぎ澄まされ、反応する。

 

 

内なる自分が語り掛ける。

 

 

これは

 

 

 

車内から出てきた、彼女を、見据える。

 

 

 

雪がしんしんと降り続く東京

 

 

 

白い世界

 

 

青い車

 

 

車内から出てきた、黒いドレスの彼女

 

 

「よろしくお願いします~!」

 

 

そこには

 

僕が惚れ込んだ、可憐な真由でもなく

 

 

寂しさに暮れて惹かれた、妖艶な真由でもなく

 

 

「あれぇ~お兄さん意外と若いのね?」

 

 

 

 

IKKO激似のババアが居た。

 

 

 

 

今宵、平成最後の激戦の火蓋が、切って落とされた。

 

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