ナンパ師が挑むメンズエステ|前編:浅き夢みしキミと

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後編:世界の中心で愛を叫んだ獣


 

 

I can accept failure, everyone fails at something. But I can’t accept not trying.
失敗をすることは耐えられるが、挑戦しないでいることは耐えられない。

– マイケルジョーダン

 

 

「あの・・・・真由ちゃんでお願いできないでしょうか。」

 

 

 

そう店員に伝え、そっと電話を切る。

 

 

 

部屋の中の静寂に「真由」という単語が反射して

 

 

 

しんしんと降り続く雪が、僕の不安を映し出しているようだった。

 

 

 

————–

 

 

2月、某日。

 

 

東京へ向かう新幹線。いつもの窓側の席に座りながらコーヒーを飲む。

 

 

朝早く出てきたおかげで、隣の席は空いている。ラッキーだ。広く使える。

 

新幹線の窓から見える景色は、極寒の東北を物語っていた。

 

どうやら関東地方を中心に、記録的な寒波がきているらしい。

 

暑くなったり寒くなったり。

 

 

神様は気分屋だな。メンヘラだから押せば即れるんじゃないか。

 

 

そんな事を想いながら、タブレットでニュースを眺める。

 

小学四年生の児童が虐待されて死亡

東京・台東区でタイ人女性が医科大生の手によって殺害

茨城で女子大生が金銭授受に巻き込まれ死亡

 

・・・やれやれ、ろくなニュースが無いな。

 

僕たちが東北の極寒の地で「ナンパ」というクレイジーなゲームをやっているうちに、どうやら日本はもっとクレイジーなゲームでも始めたらしい。

 

詳細を確認する気が全く起きないニュースを、スロットのようにクルクルとスクロールさせる。

 

・・・・どれも読む気になれないなぁ

 

そう思い文庫本に切り替えようとした時

 

光る文字盤の片隅に、興味を惹かれる文字を見つけた。

 

 

新井容疑者、出張マッサージで乱暴。損害賠償5億円以上か?

 

 

思わず吹き出しそうになってしまう。

 

性欲に負けて損害賠償5億円。

 

滑稽だ。滑稽すぎる。

 

性欲に支配された哀れ過ぎる男。

 

新井容疑者も「女性に不自由しない」を目指して、ナンパをしていればこんな事にはならなかったのに・・・・

 

どれ、この哀れな男の喜劇を見せてもらおうか。

 

そう思い、そのニュースの詳細を眺める。

 

・出張マッサージはグレーゾーン。風俗では無いらしい。

・新井容疑者は、女性従業員に強制性交をした。

・出演予定の作品が相次いで公開中止に追い込まれた。

 

思わず息をのむような、人生の転落劇だ。

 

 

一回のセックスで人生を失った。

 

 

哀れ過ぎる。

それ以上ニュースを読む気になれず、僕はカバンの中から文庫本を取り出す。

 

文庫本では、探偵を気取った主人公がマイケル・ジョーダンの格言風に語っていた。

 

 

「失敗をすることは耐えられるが、挑戦しないでいることは耐えられない。」

 

 

偉そうに、何を。

 

 

卑屈にそんな事を想いながら小説を読み進めていると、ズボンのポケットに振動を覚える。

 

真由からだ。

真由は、先月都内のS駅構内で連絡先を交換した女子大生。

 

可憐なルックス、穢れを知らなさそうな瞳。

 

是非、その日一緒に過ごしたかったが「終電が」と真面目さを前面に出されてしまい、それ以上強く押す事は出来なかった。

また後日一緒にお茶しよう。

 

 

そう約束したのは一カ月前。ようやく東京に戻る事が決まった時、僕は真っ先に真由とのアポを取り付けた。

 

「いよいよ、今夜か。」

 

待ち望んだその日の到来に、久しぶりに心が躍る。

 

すると、他の女の子からもメッセージが。

「じゃあ、また今後東京で会おうね。」

 

今回の東京滞在は数日。出来る限り多くのアポを組みたかったが、仕事との兼ね合いもあり難しい。

 

とくに、この子ように社会人、かつ、同棲を開始する子の場合は….

 

その反面、真由は大学生なので時間の自由度が高い。

 

2人とも会いたかったが、仕方ないものは、仕方ない。

 

そんなやりとりをしているうちに、窓から見える景色が徐々に無機質な、東京に染まり始める。

 

 

 

 

————–

東京に到着して、先ずは美容院に向かう。

 

今日のアポの前に気分を入れ替えよう。

 

 

お願いするのは、いつもの美容師さん。

 

「あ、ども!ご無沙汰っす!」

 

「こんにちは。ご無沙汰です。」

 

「今回も東北、長かったですね!」

 

 

相変わらず威勢が良い。僕も20代前半のころはこんな元気だったか。

 

いや、そんなことはない。

 

「あれ?なんか今日嬉しそうじゃないっすか!」

 

「え?いや、そんなことは、、、」

 

知らないうちに、今日のアポへの期待が顔から出ていたらしい。

 

確かに。なんせ、今日に向けて一週間もオナ禁をしたのだ。

 

放出先を探して熟成された息子たちも、さぞ喜んでいることだろう。

 

最近彼女にフラれて出会いを探しているという美容師の方と、コリドーの話でひとしきり盛り上がる。

 

 

 

散髪が終了。

 

新しくなった見た目と共に表参道を背に、踊るような足取りで山手線に吸い込まれる。

 

日が暮れ始めていた。

 

・・・・・アポまで、まだ少しだけ時間がある。

 

本屋で時間をつぶそうかと考えたが「雪が降りそう」との予報を思い出し、早めに帰路につく事とする。

 

自宅付近に移動すると、雪が降り始めていた。

 

 

・・・・電車、止まらないと良いな。

 

若干の嫌な予感を覚えつつ、自宅へ足を運ぶ。

 

アポの時間まで、あと3時間。

 

 

 

 

 

そして、この時の僕はまだ知らなかった。

 

 

数時間後

 

 

自宅のベットで四つん這いになりながら

 

 

まるで生まれたての小鹿のように足をガクガクふるわせて

 

 

「も、、、、、、、もっと!!!!!」

 

 

と絶叫している自分の姿を。

 


 

「ごめん。電車が止まったから会えない」

 

 

白いディスプレイから映し出される、その一文が。

 

 

僕に絶望を与えるには十分な打撃だった。

 

午後から降り続ける雪は勢いを増し、交通機関にも影響が出そうだった。

 

 

・・・・本当に影響があったのかは分からない。

 

 

この雪での移動の苦痛と、僕に会えるという楽しさを比べられ

比べられ、そして負けたのかもしれない。

 

しかし、それを問い詰めるつもりはない。その資格は、僕には無い。

「うん、わかった。また会おう。」

そう返事を返し、そのまま光るディスプレイをベッドに投げ捨てる。

 

 

心にぽっかりと穴が開いた気分だった。

 

行き場の無い、葛藤。

 

別の日にしておけば。

 

もう少し早い時間にしておけば。

 

そんな空想を描きながら、ソファでウトウトとし始める。

 

 

会いたかったなぁ。

 

あの吸い込まれる笑顔、もう一度見たかったな。

 

 

その時。

 

ベッドの上の携帯が鳴る。あわてて電話を取る。

 

「ごめん、、、、やっぱり会いたい。今からタクシーで行ってもいい?」

 

「、、、いいよ。タクシー代は俺が払う。気を付けてきてね。」

 

 

心が躍動する。

 

こんな奇跡が起きるんだ!やっぱりナンパを続けていてよかった!

 

 

 

・・・なんてことは、まるでない。

 

 

携帯はベッドの上から一度も鳴っていないし、そもそも彼女はもう僕に会いたいとすら思っていないだろう。

 

強いて言うなら、少しウトウトして時計の針が2時間分進んだくらいだ。

 

はぁ

 

溜息と共に、出張カバンからタブレットを取り出す。

 

 

ニュースでも、読むか。

 

タブレットの電源を付ける。

 

 

そして僕の目に文字が飛び込んでくる。

「新井容疑者、出張マッサージで乱暴。損害賠償5億円以上か?」

・・・・出張マッサージ、か。

いやいや、考え直せ。

いくら自分が禁欲後の落胆を受けたからと言って、簡単に風俗を申し込むような軟弱ものであってはならない。

決して、ならない。

そう誓い、タブレットを閉じる。

 

カバンから小説を取り出し、栞が挟まれているページを開く。

 

「失敗をすることは耐えられるが、挑戦しないでいることは耐えられない。」

なんだ。

 

なんなんだ。

 

俺に挑戦を促しているのか?

 

温めていたアポを失って、失意の中にあるこの俺に。

 

挑戦しろ、と言っているのか?

 

運命とは残酷だ。

 

「人生は麻雀に似ている。引いてくるハイは分からないが、どう切るかはお前次第だ。その手を奇跡にするか、ゴミにするか。すべてお前次第だ。」

 

 

そんな事を言っていた、仙台オフィスの所長を思い出す。

 

・・・・・さて。

 

このハイ、どう切る。

 

先ずは相手を知ろう。

 

ベッドの上に投げ捨てたスマホを手に取る。

 

「メンズエステ 東京」

 

文字を打ち込み、サイトを開く。

これは・・・・・・

 

思わず愕然とした。

 

これは・・・・

 

これは・・・・・・・・!??!?!

 

もう風俗じゃないか!?!??!

 

禁欲中の僕を駆り立てるのには、十分すぎるエサだった。

 

僕は、淫乱な獣に憑りつかれたように、サイトをあさる。

 

その中に、一店舗。

 

 

非常に女の子のレベルが高く、またサイトの作りもゴージャスな店を見つける。

 

いけない、、、、

これ以上見ると、、、、

申し込んでしまう、、、、、、!!!!

 

もうスマホを閉じて寝よう。

そう思った矢先

特段に目を惹く可愛さの女の子の自己紹介に、僕は目を奪われた。

 

 

真由(21)

 

 

どうみても、僕の知っている真由の見た目ではない。

 

明らかに違う。

 

こちらは源氏名だろう。他人だ。

 

しかし

 

これは

 

 

運命の悪戯なのか

 

それとも

 

悪魔の所業なのか

 

落ち着け。

そう頭の中で何回も反芻させる。

 

一旦冷静になれ。

 

今まで何度も、敗北は味わっただろう。

 

 

冷静に。

 

冷静に。

 

至って、冷静に

 

 

冷静に、その店の電話番号にダイアルをする。

 

「あ、すいません。真由ちゃんでお願いしたいのですが」

 

平成最後の激戦がいま、静かに開幕した。

 

さあ

 

ゲームの始まりだ

 

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